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2007年10月12日
高齢者の有料老人ホーム・特養・施設内恋愛について
前回予告させていただいたように、高齢者の施設内恋愛についてお話をしていこうと思う。人間は百八の煩悩があるといわれているが、食欲にまして人間の異性に対する関心というか、興味は生涯なかなかつきないものである。特に女性よりも男性という生き物は元来どうもスケベなものではないかと思われる。そうでなければ人類は絶えてしまうかもしれないからまあ、しかたがないが。女性は生理が終わる頃をだいたい境として異性にあんまり関心がなくなる方が多いように見受けられる。恋愛よりは食欲に走るかもしれぬ、大福を食べながら原稿を書いているものだからつい失礼した。
しかしながら、性欲ならぬ、恋愛は双方の異性への好意が互いにやり取りされ、ある程度のラリーを続けることによって様々な生きている意欲のような不思議なエネルギーを呼び覚ます。それはある見方をすれば燃え尽きる前にもうひとひかりするような線香花火の最後に閃く火花のような妖艶な美しさがある。少し前までは自由な恋愛などはけっこう田舎はタブーでたとえ好意は持っても結婚としては添い遂げることを許されないというような哀しい恋がたくさんあった。
互いに別々の伴侶を経て・それなりに平凡な家庭を築いて、波乱万丈あって半世紀をはるか越して二人が運命の再会を果たしたのは特別養護老人ホームのホールであった。70年ぶりにその額に深く刻まれたしわよりもはるかに互いの思いの方が深かったことを確認したその瞬間、タイムトンネルを経て二人は10代の乙女と青年に戻った。現実は車椅子をやっと自走するSさん(←84歳のおばあちゃん)と四点杖をやっとつきながらよろよろ歩くTさん(87歳のおじいちゃん)が眼を潤ませながら物言わずにみつめあっているのであった。何も台詞は必要なかった。Sさんはその日老人病院から特別養護老人ホームに入所してきたばかりであった。Tさんは入所3年目であった。その日から穏やかな笑みを浮かべながらゆっくりと施設内の廊下や苑内の中庭を散策する二人の姿を周囲が一日中みかけるようになるのであった。それは永らく人生の道を互いに寄り添い歩く夫婦そのものであった。
例えはよくないが、庭園で花をめいでながら微笑む皇室アルバムの一場面のようだった。Tさんが行き止りの廊下の片隅で杖を離して両手を車椅子の白髪のSさんを抱きしめている場面に遭遇した職員は抱えていた洗濯物を思わずその場に落としそうになったのである。杖がなくてちゃんと立っている上に中腰で熱い抱擁を交わしているのに度肝を抜かれたのである。奇跡的に立ち上がったアルプスの少女ハイジにでてくるクララをみた気分だったに違いない。その日を境にTさんはゆっくりと自力で歩くことができるようになった。入所以来あんなにリハビリをしても平行棒から手が離せなかった方とも思えない。
一方、車椅子のSさんはTさんと物静かに寄り添っているだけで、他の利用者と接触している感じはまったくない。食堂というのは当然指定席のように座る場所はほぼ固定的であるのが普通である。新参者は、なかなか入りにくい雰囲気はある。空いている場所を職員が見極めてそのテーブルに座っている利用者さんたちの了解を取って座るという感じが普通である。
で、TさんとSさんはどうしたか?結論から言ってTさんの席の隣を車椅子が入れるようにやや強引に空けることになったのである。二人の食卓空間が作られてしまった。右側が麻痺しているTさんは食べ物を口元から時々こぼす。さりげなく、口の周りについた食べ物を自然にゆっくりととろうとするSさん。実にかいがいしい。
「どうします??」なんていう職員の声がまもなくミーティングで出された。「どうするって?」と聞き返した私。「貴方がたはどうしたいの?」「・・・・・」「他の居住者の手前もありますし。集団生活だから良くないですよね。Sさんもお友達ができないし。」TさんとSさんの経緯については既に察しがついていた私は、さてさてどう動いたでしょうか。
いきなり結論を先にいうと マディソン郡の橋の高齢者バージョンになった。一週間ではなかったが三ヶ月は続かなかった。長くはなかったからこそ美しく輝いてみえたに違いない。夫婦というのは年月を重ねると空気のような感じになるらしい。お互いに異性という緊張やときめきはそんなに長い間維持できるはずがないというのが筆者の意見である。駅の改札で、別々のホームに別れていく時が妙に寂しい恋人時代。一緒に同じ家に帰るという事が嬉しい新婚時代。子供の後姿を髪振り乱して追いかける子育て時代。このあたりから手をつないで歩いたり、二人きりで食事や旅行に行くこともなくなる。で、同じ部屋にいてテレビだけがしゃべり、味噌汁をすする音しかしない食卓になる。寝室もいつのまにか、別になっていたりする。
そういうのが年輪を重ねた夫婦の在り様だと思っていると、高齢者になると熱い抱擁や接吻をしたりするのが妙になまなましく、いやらしくみえるのはなぜだろうか。白髪やつるつる頭であれば、寄り添っているのは不自然なことなのだろうか。同衾という言葉を引いてみるのもいいのではないか。私の勤務先の特別養護老人ホームは夫婦で入所なら、当然2人部屋に一緒にベッドも並べて寝ていただくことにしていた。むろん夫婦というのは法律的でなくてもいい。事実婚であっても構わないから、できればカップルは同じ部屋にしてあげたいのが人情というものだろう。
家族にお話して了解を得て同室にさせていただいたケースも確かにあった。まあ、相続の問題にならなければそんなに構わないと思いきや、年老いて要介護状態になっている親が異性と交際するということ自体に拒否反応を示すご家族が多い。異性に関心を持たなくなることの方が人間が枯れて来たと心配して欲しいのだが。
デイサービスでも一番盛り上がるのはフォークダンスもどきや集団お見合いのような男女がペアになる場面のある催しである。セクハラにならない雰囲気でほのぼのに持っていくのがいい。「握手する」というバツゲームぐらいならいいがSさんは幼馴染ではあってもけ っして人生の大半においては接点がなかった。お互いの人生は半世紀を過ぎて再び交差したのである。なんとかまとめてあげたかったが、Tさんの再発作と入院、死亡が再び2人の仲を引き裂いたのであった。
さよならは突然来た。死が二人を分かつまで暖かく見守ってさしあげたいと思っていた矢先であった。寒い早朝だった。4人部屋から静養室にストレッチャーで移動するのをまるで待っていたかのように車椅子のSさんが来た。無言のままであったが、何かを理解しているようにベッド脇にすすんだ。嘱託医が到着するまでのわずかな時ではあったが二人だけの時間が流れた。大勢の職員が駆けつけたし、看護師が忙しく手当てをしていたのだが二人の心の空間には入りこめる余地がなかった。苦しそうな呼吸音だけが響いていたように覚えている。意識は戻ることなく、3日後に病院にて亡くなった。Tさんは奥さん、お孫さんに看取られての87歳3ヶ月と2日の人生だった。Sさんは病院に見舞いに行きたいとも逢いたいとも一言もつぶやくこともなかった。むろん、お葬式にも行くことはなかった。どうでもいい事だがSさんは20歳台で旦那さんを亡くし、子供2人を女手で育てあげて晩年はひとり暮らしの上、老人病院入院、特別養護老人ホーム入所であった。
最近施設には仏間や神棚、祈りの部屋等宗教の部屋があるところが増えて来た。宗教や死は施設のタブーではけっしてなく、逆に人生の最後をどう迎えたいか、入院を希望されず施設で息を引き取りたいという方も徐々にでてきた。正に死に方を自己選択できる第一歩かもしれない。Tさんのご家族にはついにSさんの存在は伝えないままに結果としてはなってしまった。意図的ではないにしろ、やはり何も事情の知らぬTさんの奥さんには理解できないTさんの人生のひとコマだったに違いない。Sさんはお元気で現在なお施設で静かな生活を送られている。
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投稿者: 日時: 2007年10月12日 09:33 | パーマリンク |TOPページへ ▲画面上へ
高齢者の有料老人ホーム・特養・施設内恋愛についてを最後までお読下さいましてありがとうございます。
用語解説
・ショートステイ
介護を行う家族が休養、病気などで一時的に介護が困難になった場合に、特別養護老人ホーム、有料老人ホームなどで一週間程度預かってもらい、介護の負担を軽くすることを目的にしたもの。
・通所介護
一般的に「デイサービス」と呼ばれ、在宅で介護を受けている人が、日帰りで施設サービスを利用すること。行き帰りの送迎や食事、入浴、レクレーションや機能訓練を受けることもできる
・特別養護老人ホーム
「介護老人福祉施設」とも呼ばれ常に介護を必要とする要介護度1以上の人が入所する施設。かかる費用としては平均月5万4000円と安価だが、入所待ち期間が2~3年で主に相部屋(現在は個室化が進んでいる)での入所生活を送ることになる。
・認知症
一度獲得した知能が、後天的に脳や身体疾患を原因として慢性的に低下をきたした状態で、社会生活、家庭生活に影響を及ぼす状態と定義されている。認知症をきたす疾患としては、アルツハイマー型が40数パーセントと最も多く、これに脳血管性型が30数パーセントで、この二つをあわせて、認知症の80% を占めている。認知症の約10%に、ホルモン異常やうつ病、中毒、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫といった早期に治療すれば治る可能性のある可逆性のものが含まれている。以前は痴呆症と呼ばれていた。
あ
悪性関節リウマチ 悪性腫瘍 アクティブ80ヘルスプラン アセスメント アニマル・セラピー アルツハイマー型老年認知症(痴呆) 安楽死 医学的リハビリテーション 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 移送サービス 遺族年金 一級ホームヘルパー 一般型特定施設入居者生活介護 医療費 医療保険制度 インフォームド・コンセント うつ病 運動療法 エアマット NPO MRSA 嚥下障害 音楽療法 オンブズマン制度
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